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Interview

ダグラス・ウェバー
大自然とテックの共存から生まれた
次世代のコーヒープロダクト

2020年04月06日

 

米・アップル社でデザインエンジニアとして活躍したのち、福岡県糸島市にコーヒープロダクトのデザインや製造・販売をする〈Weber Workshops〉を設立したダグラス・ウェバーさん。アトリエは森に囲まれ、すぐそばには海があるという自然豊かな環境で、最新鋭のコーヒープロダクトが生み出されています。

アトリエ内にあるキッチンには丁寧に手入れされた道具が整然と並び、まるで実験室のよう。窓の外に広がる緑とのコントラストも美しい。写真中央にある顕微鏡のようなフォルムをしたマシンはダグラスさんが開発した電動グラインダー「EG-1 Electric Grinder」。

 

働き方も、生きていく環境も、自分でつくってしまえばいい

アトリエ周辺の大自然とダグラスさんがつくった最新鋭のグラインダーやコーヒープロダクトが不思議となじんでいます。ダグラスさんのクリエイションに、この地はどのような影響を与えているのでしょうか?

生まれはロサンゼルスで、サンフランシスコで仕事をしてきて。でも、だんだん大都会での生活に飽きを感じるようになって、ずっと自給自足の生活にあこがれていたんです。それに、毎日行きたくなる職場って、なかなかないでしょう? だったら、自分でそれをつくってしまおうと思ったんです。そうすれば、仕事自体が楽しくなるはずだからね。

現在のアトリエは1年ほど前に見つけた。「すぐそばに山も海もあるし、空気もおいしい。この場所の明るくて開放的な雰囲気に一目ぼれしたんです」。元からあった建物を生かし、少しずつ手を加えながら理想の空間をつくり上げてきた。

 

住まいは別の場所にあるけれど、今、このアトリエを自宅として改築している最中なんです。畑や動物の世話をしたり、海で泳いだりしながら、デッサンや図面を描いたり、次につくる機械のことを考える。それぞれの営みがほどよくバランスが取れたかたちで毎日を過ごしていきたいんです。

どんなに最新鋭でかっこいいものをつくったって、自然には絶対に勝てない。そんな葛藤もあるけれど、でも、僕は自然があるからこそ、ものをつくりたくなるんです。

アトリエの裏手にある森の中を進むと3分ほどでビーチに到着。仕事の合間にサーフィンを楽しむこともある。

 

―コーヒーに興味を持つようになったのは、いつごろからですか?

カフェという場所自体は高校生の頃から好きでしたが、コーヒー好きになったのは、アップル社に入ってからですね。当時はサードウェーブコーヒーが生まれるずっと前だったけれど、周りの仲間たちもコーヒーへの関心は高くて、「サンフランシスコ市内なら、どこでいちばんおいしいコーヒーが飲めるか?」なんて話をしたりして。アップル社のデザインスタジオには「E61」という古いエスプレッソマシンが置いてあって、休憩時間になると、みんなで集まっては機械と遊びながらコーヒーを淹れていたものです。

それでコーヒーへの興味がつのって、とうとう自分でもエスプレッソマシンを手に入れたんです。最初は数百ドル程度の家庭用のものを、それだけでは満足できなくなって、業務用のマシンを買って。僕はエンジニアだから、どうしても機械の中身が気になるんですが、マシンを買うたびに分解したりしてね。でも、それで気付いたことがあったんです。

エスプレッソマシンも、グラインダーも、コーヒー周りの道具の機構はどれも昔ながらの技術でとどまってしまっていた。これは伸びしろがあるなと確信したんです。それに、道具をブラッシュアップすることでもっとおいしいコーヒーを淹れることができたなら、超激務の合間のわずか5分間のコーヒーブレイクも最高の時間になる。そんなふうに思っていました。

コーヒーを淹れる一つひとつの所作も美しい。「コーヒーは水も大切。住まいは糸島市内の山間部にあるのですが、そこでとれる山水を使っています」。ダグラスさんが淹れるコーヒーは苦みが一切なく、すっきりとした酸味とほのかな甘みのバランスが絶妙。

 

アップル社を退社して、コーヒープロダクトの設計や製品づくりの道に進みました。かなり思い切った転身を遂げたように感じられますが。

アップル社時代はデザインエンジニアとしてiPod nanoiPhoneの開発に携わっていて、世界中のガジェットを革新しているという実感があったし、充実もしていた。でも、会社が大きくなっていって、自分は役職が上がって、手を動かす人間からマネジメントする側の立場になって。ものづくりがしたくてここにいるはずなのに、自分の軸がぶれてしまったように感じたんです。僕はいったい何をしているのだろう、と。

こちらもダグラスさんが開発した製品である手動式のグラインダー「HG-1 Hand Grinder」。電動のグラインダーと同様に挽き残りが起こりにくく、工具を使わずに手入れや掃除も簡単にできる。

 

それで、自分らしくいられるスタンスを保ちながら、元々好きだったコーヒーに関わることができる方向にシフトしていくことを決めたんです。自分で種をまいて、それをひとりで地道に育てていくようにものづくりをしたかった。だから、いちばん最初はシンプルな手動のグラインダーをつくって、それを売ってできた資金で電動のグラインダーを開発、販売しました。

学生時代、九州大学に留学していたダグラスさん。陶芸に興味を持ち、前原市(現・糸島市)の窯元で作品づくりに没頭した。「その頃につくった花器。一輪ではなく、“三輪”挿しです。どことなく機械の部品っぽいですよね。陶芸でもメカニカルに物事を考えてつくっていたように思います」。

 

たった1杯のコーヒーを、最高においしく味わうためのものづくり

アップル社時代も、今も、ダグラスさんの軸にはものづくりがあるんですね。新しいものを生み出すとき、大切にしていることは?

機械の設計では、いつも「それが果たすべき機能は何か?」をいちばんに考えます。例えば、グラインダーならば、コーヒー豆を飲み物にするために適したかたちに砕くことが役割です。そう考えると、もっとも重視すべきは刃ということになります。

アトリエ内の作業スペースにはさまざまな工具が置かれている。「時間を見つけては何かしらつくっていますね。コーヒー関連のものだけでなく、左官の道具も、木工の道具でも、道具というもの自体がとにかく好きなんです」。

 

それを起点にして、刃を動かすための機構やグラインダー内で豆が移動する道筋、それから、電動のグラインダーであれば少なからず熱が発生して豆に影響が出てしまうので、豆を最高の状態で挽くためにモーターの位置を探ったりと、一つひとつを丁寧に検証していく。デザインは脚色を極限までなくし、使用する部品も最小限にとどめる。僕のものづくりは超合理的なんです。

ダグラスさんが開発したグラインダーの性能と精度の高さに、コーヒーのプロのみなさんも引き付けられていますが。

スペシャルティコーヒーの世界では、コンマ1グラム単位で抽出率を制御することは常識。エスプレッソを淹れるとき、ポータフィルターに挽いたコーヒーを多めに入れてはかりに乗せ、オーバーしたぶんを丁度良い分量になるまで少しずつすくって減らしていく。つまり、貴重なコーヒー豆を捨てていることになる。でも、よく考えてみると、こうした行為はコーヒー豆の生産者の方にとても失礼だと思うんです。

ただ、これはグラインダーの性能がまだまだ途上であるということの証です。グラインダーにジャスト20グラムの豆を入れても、挽き上がりは18.3グラムだったり、20.5グラムだったりとばらつきが出てしまう。グラインダーの中に挽き残りのコーヒー豆が付着して、それがどのタイミングで出てくるかが分からない。挽き立てのコーヒー豆に挽き残りが混ざれば、それだけ味も落ちてしまう。でも、コーヒー業界では、ずっとそういうものだと認識されてきたし、今でも当然のようにこの状況が受け入れられてしまっているんですね。

こうした現状を変えたくて、僕は必要なグラム数だけを挽けるグラインダーをつくったんです。自分はコーヒーが大好きだし、ものづくりを通じてコーヒー業界や生産者の方々に貢献していきたい。挽き残りがなければ食品ロスも防げるし、グラインダーの性能が良ければコーヒーの味も絶対に変わる。自分のものづくりによってコーヒーの業界に革新をもたらすことの面白さや醍醐味を感じると同時に、今ある課題を地道にクリアしていって、さらにより良い未来へとつなげられたらと思っています。

こちらはPCスペース。「ここでデッサンを描いたり、CADで設計図をつくったり。デスクワークが続いたら、思い切り体を動かす。人間の体って、そもそも肉体労働に向いた構造をしているんじゃないかなと思うんです」。

 

2019年、福岡市内にカフェ〈カマキリコーヒー〉をオープンさせました。お店を開こうと思った経緯は?

いちばんは、自分のカフェを持ちたいという夢をずっと持っていたから。それから、今のところは自社製品の販路はネットのみなのですが、購入前に実機を見てみたいというニーズもあって、それでお店を開くことにしたんです。僕がつくったグラインダーやコーヒーアクセサリはプロの方に使ってもらっていますが、実際にお店で使ってみるとどのような課題や改善点があるのか、それを探ってみたかったことも理由です。ですから、お店はショールームであり、ラボでもあります。

お店をつくるときは、コーヒーそのものの味だけでなく、ペアリングもかなり意識しました。極上のコーヒーには極上のパン、僕はこれに勝る相性の良さはないと思っているんです。パンは、乗せるものによって楽しみや味わいがいくらでも変わるでしょう? いわば、カンヴァスみたいなものなんですよね。でも、カンヴァスになるほどのおいしいパンは、実は日本では、なかなかお目にかかれないんです。カマキリコーヒーが参考にしているのは、サンフランシスコで古き良き時代のパンづくりをしている世界的にも名の知れたお店のパン。材料は糸島産の小麦粉、塩、水、それから、自家製酵母だけの、シンプルだけれど滋味深い味わいをめざしているんです。

ダグラスさんがつくったコーヒープロダクト「Bean Cellar Glass」。試験管のようなガラス製の容器に焙煎したてのコーヒー豆を入れてエイジング(熟成)させる。一つひとつの容器はちょうどエスプレッソワンショット分のコーヒー豆が入るサイズ。「豆の種類にもよりますが、焼き立てよりも3日から1週間ほど置くとおいしくなるんです」。

 

極上のコーヒーのために。ダグラスさんのものづくりには、そうした思いが込められています。「The Roast」に対しても、シンパシーを感じる部分もあるそうですね。

エンジニアとしての立場から見ても、とても興味深い道具ですね。これくらいの規模で、これだけクオリティの高い焙煎ができるんだと驚きました。これなら家庭でも最高においしくコーヒーを楽しめるんじゃないかな。極上のコーヒーを味わうためのプロダクトですよね。僕のものづくりのスタンスにも通じるところがあるように感じています。

僕は、一生ものになるくらいの製品をつくっていきたいんです。機能が良ければその道具を使う行為自体が楽しくなるし、もちろん、コーヒーだっておいしくなる。人間の味覚は、そう進化するものではありませんから、今おいしいと感じるものは、50年後だって絶対においしい。最高のコーヒーを淹れるための道具をつくることができれば、それはこれからもずっと普遍的なプロダクトとして生き続けるはずです。

ダグラス・ウェバー

米国カリフォルニア州出身。スタンフォード大学卒業後、アップル社に入社。プロダクトデザインエンジニアとして「iPod」「iPhone」の開発に携わる。アップル退職後の2014年に〈Weber Workshops〉を設立。大学時代、九州大学留学中に福岡県前原市(現・糸島市)で過ごした経験から2017年に糸島市に移住。現在コーヒーエンジニアとして、グラインダーをはじめ、コーヒー関連プロダクトのデザイン・設計・製造を行う。

 

写真:中村紀世志  取材・文:菅原淳子