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Interview

溝口実穂
人びとの心に、糧菓がもたらす光

2020年07月22日

 

東京・浅草で完全予約制の茶寮〈菓子屋ここのつ〉を主宰する溝口実穂さん。溝口さんがつくり出す四季折々の恵みを生かした菓子は独創性にあふれ、過去にはAKATITIに掲載しているThe Roastとのコラボレーションから生まれた企画「ここのつ茶寮 季節の菓子と珈琲」も好評を博しました。2020年6月には、親交の深い陶作家・安藤雅信さんとの共著『茶と糧菓 喫茶の時間芸術』を発表。溝口さんが伝えていきたいものとは。

【プレゼント】サイン本『茶と糧菓 喫茶の時間芸術』安藤雅信・溝口実穂

過去のAKATITIでの企画「ここのつ茶寮 季節の菓子と珈琲」では、季節やペアリングするコーヒーに合わせて月ごとに12種のお菓子を提案した。

 

和と洋、菓子と料理。あらゆる垣根を越えて生まれた糧菓

――〈菓子屋ここのつ〉では、茶寮というかたちで菓子のコースを出されています。始めたきっかけは?

幼い頃から祖母が餡を炊いている姿を間近にしていたり、〈菓子屋ここのつ〉を始める前、和菓子屋さんで働いていたりと、私自身のベースは和菓子にあります。和菓子とは聞くと、色や形で季節を表現する練りきり菓子や、持ち帰ることができる朝生菓子、羊羹などを思い浮かべる方が今はほとんどですが、私は日本の四季があるからこそ生まれる食材を使った菓子=和菓子と思って生きてきました。
できたての温かさ・締めた冷たさ。といった自分がベストと思うタイミングでお客さまに召し上がっていただける和菓子を食べてもらいたい。
料理はコース仕立てがあるのにどうして和菓子にはコースがないのだろう。ないなら自分でやってみよう!失うものがないので何も怖くなかった。23歳の若気の至りですね。

コーヒーと対話するかのように、静かで美しい所作で淹れる溝口さん。写真内の片口や茶杯は安藤雅信さんの作品。茶寮において、なくてはならない存在だ。

 

きっかけは、20代前半の頃、休みのたびに訪れていた京都でのことでした。一見すると豪華なお屋敷なのだけれど、小さなのれんが掛けられていて、邸宅ともお店ともつかないようなところを見つけて。なんとなく気になって、しばらく眺めていたら、中から白衣を着た職人さんが出てきたんです。思い切って声をかけてみたら、「菓子をつくっている」と。ごく限られたお客さまのためだけに菓子をつくっている菓子屋だったのです。色々な事を教えてもらいました。

 

もう一つ、考えていたことがあります。日本には豊かな四季があって、季節ごとにさまざまな野菜や果物ができます。従来からあるような、いわゆる和菓子の型にとらわれず、食材の味はもちろん香りや色など、すべてを感じてもらえるような菓子を多くの方に食べてもらいたい。

私がつくるものは、菓子と料理、それぞれの要素が重なり合っていますし、和菓子にはあまり用いられない生クリームやバターなども使っているので、洋菓子との境目があいまい。それで、和菓子という呼び名が次第にしっくりこなくなりました。

ちょうどその頃、木工デザイナーの三谷龍二さん夫妻にご紹介いただき、安藤雅信さんとご縁をいただきました。初めてお会いしたとき、「面白い菓子をつくる人だと思っていたんだ」と、おっしゃってくださって。

「私はもともと古道具が好きだったのですが、安藤さんの器は現代のものなのに、不思議とそれらともよくなじみます。佇まいが魅力的なだけでなく、実際に手にして使うほどに安藤さんの工夫が伝わってきます」。

 

――溝口さんがつくるものを「糧菓(りょうか)」と名付けたのは、安藤さんだそうですね。

安藤さんが提案してくださったんです、「これはもはや、和菓子じゃない。新しい名前を付けよう」と。私がつくるものは、菓子と料理の境にあるようなもの。だけど、安藤さんに言われて気づいたのですが、私がつくるひと皿は、必ず菓子の大きさだったんですね。「糧」という字には「ある一定の大きさ」という意味合いもありますし、「りょう」という響きは「料理」にも通じる。それで「糧菓」となりました。

何度もいらしてくださっているここのつ愛好家の方達が、「この茶寮の存在が、私の生活の糧(かて)になっているんです」と、言ってくださったその言葉も合間って、「糧菓」がしっくりきて本当にいい名前をつけていただいたなあ。と安藤さんには感謝しかありません。これからここのつ愛好家の皆さんと「糧菓」を育てていく事が愉しみです。

焙煎前のコーヒー豆。こちらは『茶と糧菓』にも登場する沖縄産スペシャルティコーヒー安田珈琲「AKATITI」。

 

菓子屋ここのつを始めてから、紆余曲折もちろんあり、プライベートでも悩んだりと、順風満帆な時ばかりではもちろんありませんでした。だけど、茶寮を開くたびに、自分がつくったものを食べてくださり、喜んでいただけることが本当に嬉しくて。私は皆さんの存在・喜ぶ顔に救われて、皆さんには茶寮の時間を生活の糧と思ってもらえるなんて、ここにはなんて幸せな循環があるのだろうと、失われていた自分自身の存在意義を肌で感じ、感激した日々が今でも背骨になっています。

死ぬまで続けたい仕事なんだろうな。と思います。人は誰もが、毎日を懸命にそれぞれの物語を生きています。茶寮に来てくださるお客さまの物語のなかに私がいる意義や役目は、大げさかもしれませんが、みなさんに生きる力をチャージすることだと思っています。

コーヒーとのペアリングや夏をイメージした溝口さんの菓子。「パッションフルーツ、餡、バターの最中です。パッションフルーツは浅煎りのコーヒーの酸味とよく合うんですよ」。

 

――溝口さんにとっての糧とは、なんでしょう?

私は、自分で表現をして、みなさんに喜んでいただけたら、それで十分にチャージされているんです。茶寮という場を通じて出会うお客さまの存在や、そこで生まれる体験の数々。それらのすべてが、私の糧になっています。

みなさんに提供していきたいものは、茶と菓子だけでなく、それらをいただく時間や空間です。ほんの少しの間だけでもあらゆるものから解き放たれ、思い思いのひとときを過ごせてもらえたらと願っています。このご時世であらゆる価値観が様変わりしてしまったけれど、私の茶寮は何も変わりませんし、変える必要性はないと思っているんです。

溝口さんのインスピレーションの源は、なんと縄跳び。「出先で私は迷わずエスカレーターを選びましたが、安藤さんはなんと!率先して階段を選ばれ、しかも軽やかに1段抜かしで登っていました。その時の敗北感と安藤さんに対する尊敬の気持ちは今でも鮮明に覚えています。それ以来、よほどのことが無い限りは、階段を選んでいます。そして体力をつけようと縄跳びを始めました。飛んでいるときに新しい菓子のアイデアが浮かんだりするんです」。

 

食に器、空間まで。総合芸術としての喫茶を追い求めて

――安藤さんの器と、溝口さんの糧菓。『茶と糧菓』からは、おふたりの個性や世界観がたっぷりと感じられます。

私にとって器は、食材と同じくらいに大切なもの。糧菓と器をひきあわせることで、初めてお客さまにお見せできる景色があるからです。『茶と糧菓』には、6回の茶会の様子を収めています。茶会ごとに安藤さんが新作の器を制作してくださいました。

本のサブタイトルには「喫茶の時間芸術」と名付けていますが、安藤さんと私が考える茶会とは、まさに体験型舞台。「喫茶」というと、真っ先に喫茶店を思い浮かべるかもしれませんが、コーヒーや紅茶、中国茶に日本茶など、あらゆる飲み物を指す言葉であり、さらには、飲み物と合わせる菓子、それらをいただくしつらいまでを含めた日本の飲料文化の総称なのです。

2020年6月、陶作家・安藤雅信氏との共著『茶と糧菓 喫茶の時間芸術』(小学館)を上梓。溝口さんの糧菓にまつわるコラムやレシピ、安藤さんによる茶席の解説や現代の茶数寄論も収録。

 

――本を制作するにあたって、印象に残っていることはありますか?

〈菓子屋ここのつ〉の茶寮では、安藤さんの茶杯や器はたびたび使わせていただいていましたが、これまでとはまた違ったイメージの器があったりして新鮮でした。どのような器なのか、茶会の前日になってからやっと見せてもらえることもあったり、お互いに種明かしは前日までしないバチバチスタイルでした(笑)。

安藤さんとは親子ほど年齢が離れていますし、私は菓子、安藤さんは器と彫刻作品といったように、つくるもののフィールドも異なる。だけど、どこか好敵手のような関係であり、同志だと思っています。普段の茶寮であれば、器も菓子も、すべてを自分で決定できますから、私のなかで完結できるけれども、二人で茶会をやることで成長させてもらえたと感じています。

安藤さんの器は、見た目が美しいだけでなく、実際に口に当ててみたり、使われているシーンを見て分かる良さがたくさんあります。

下町の住宅街にある〈菓子屋ここのつ〉。茶寮の静謐な空間は、外とは異なる時間が流れているかのようだ。

 

例えば、コーヒーの道具であれば、ドリッパー。フォルムは無駄がなくシンプルで美しいく、コーヒーの渋みや雑味が出ないように計算しつくされていて。1滴目のコーヒー液がサーバーに落ちるまで、これもまた安藤さんの片口でぽたぽたと点滴のように湯を落としていくのですが、片口の注ぎ口の湯切れが良くて、思い通りに湯の量をコントロールできる。おかげで、以前よりもずっとおいしくコーヒーを淹れられるようになりました(笑)。

 

――『茶と糧菓』では、コーヒーにスポットを当てた「珈琲茶会」も開かれています。

沖縄県のアダ・ファームでつくられているコーヒー豆「AKATITI(アカチチ)」を使わせていただきました。私は菓子の材料選びでもそうなのですが、珍しいものだったり、日本でつくられている上質なものを使いたいと思っています。純日本産のコーヒー豆があるなんて、きっとほとんど知られていませんよね? しかも、スペシャルティコーヒーがつくられているなんて。実際に「The Roast」のプロジェクトでアダ・ファームにうかがったとき(※)、まるでジャングルのような過酷な環境のなかで、生産者の方によってコーヒーが丁寧に育てられている様子がとても印象的で。なんだかとても感動してしまったんです。

沖縄本島・国頭村安田地区にあるアダ・ファームで生産されている安田珈琲「AKATITI」。年間の生産量はわずか50kgほど。これまで日本の土壌や気候条件はコーヒー栽培には不向きとされてきたが、土地が本来持つ力を引き出すことで生まれた。

 

私は昔から喫茶店が好きで、中煎りや深煎りのコーヒーには慣れ親しんでいたのですが、アダ・ファームでは「AKATITI」の浅煎りのものをいただいたんです。フレッシュなものであれば、変な酸味はまったく感じられなくて、ほどよく綺麗な酸味がむしろ旨味になっていて。こんなにおいしいコーヒーをいただけるなんて、日本に生まれて良かったと思うほどでした。このコーヒーに合う和菓子のイメージが、次々といくつも浮かんだことを今でもよく覚えています。

「珈琲茶会」では、乾燥させた安田珈琲のコーヒーチェリーの皮を煮出したカスカラに始まり、浅煎りから中煎り、深煎りのコーヒーをお出しして、それぞれの味わいを引き出せるようにと合わせる菓子を考えました。同じコーヒー豆を、まるで一つの物語を読み進めていくように味わってもらうことをイメージしました。

 

――〈菓子屋ここのつ〉として、コーヒーとどんなふうに付き合っていきたいですか?

通常の茶寮とは別に、不定期で「菓子的朝食」という朝食会を行っているのですが、友人のやっちゃんにも協力いただきたびたびコーヒーをお出ししています。「The Roast」を使って、その場で焙煎したコーヒーを召し上がっていただいたこともありました。焙煎したてのものを飲む機会は、そう多くはないと思うので、お客さまにとても喜んでいただけました。

……そういえば、私、最近はコーヒーと会話ができるようになりました(笑)。自分の目の前にあるコーヒー豆がどんなふうに淹れてほしいのか、なんとなく感覚で分かるようになったんですよ。

コーヒーの味わい方の可能性も、まだまだ無限にあります。例えば、スパイスを使ってみたり、添えるクリームを工夫してみたり。いろいろなアレンジで召し上がっていただくことも今後やってみたいと思っています。

溝口実穂 MIZOGUCHI Miho
1991年生まれ。和菓子店勤務を経て、23歳で菓子と茶のコースを提供する〈菓子屋ここのつ〉を東京・浅草鳥越にて始める。日本に古くから伝わることを身をもって学び、変えなくて良いことと変えていくべきことを、茶寮を通じて表現。著書に陶作家・安藤雅信氏との共著『茶と糧菓 喫茶の時間芸術』(小学館)。

 

ここのつ×安田珈琲との出会い(The Roastプロジェクト)
イベント前夜、手づくりの和菓子で、後藤さんが焙煎したコーヒーとの見事なペアリングを見せてくれた溝口さん。仲村さんが焙煎する「安田珈琲」とのペアリングもぜひ味わってみたいものです。

※パナソニック「The Roast」の公式ページ
珈琲がつなげる想いと、つないでいく未来 〜The Roast secret session in Ada〜【前編】
珈琲がつなげる想いと、つないでいく未来 〜The Roast secret session in Ada〜【後編】

写真:中村ナリコ 文:菅原淳子

この記事で紹介されたモノ

アダ・ファーム

安田珈琲のCASCARA(カスカラ)80g

1,600円(税込)

CASCARA(カスカラ)は、コーヒーの原料となるコーヒーノキの果実を乾燥させたフルーツティーです。コーヒーノキの果実はコーヒーチェリーと呼ばれるため、コーヒーチェリーティーとも言われています。 CASCARA(カスカラ)は、農薬等の問題もあり、あまり日本で見かけることはありませんが、一部の生産国や輸入国ではハーブティーや紅茶感覚で楽しまれています。コーヒー好きの人も、そうでない人でも、紅茶やハーブティに近い感覚で、フルーティーな香り・甘さ、プラムやローズヒップ、ハイビスカスに似た味わいを楽しめます。

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Panasonic Store

Panasonic スマート コーヒー焙煎機「The Roast Basicサービス」

110,000円(税込)

The Roast(ザ・ロースト)Basicサービスは、毎月ご自宅に届く生豆、豆に合わせた焙煎工程(プロファイル)、焙煎機本体をセットにプロの焙煎技術を再現。毎月 世界各地から厳選された「スペシャルティコーヒー生豆」および 豆に合わせた唯一無二の「焙煎プロファイル」をお届けする定期頒布サービスです。 焙煎機本体(スターターキット付き)をご購入のうえ、別途GREEN BEANS(生豆)定期頒布のご契約が必要です。

  • 生豆1種コース(200g×1):月々2,160円(税込)
  • 生豆2種コース(200g×2):月々3,672円(税込)
  • 生豆3種コース(200g×3):月々5,184円(税込)

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アダ・ファーム

安田珈琲 AKATITI 焙煎豆 40g

3,900円(税込)

沖縄県国頭村、自然豊かなやんばるの山奥で、農業生産法人アダ・ファームを主宰する徳田泰二郎さん。日本初のスペシャルティコーヒーの栽培に成功しながらも、常に挑戦を続けています。日本では不可能と言われていたスペシャルティコーヒーを誕生させた背景には、奇抜なアイディアや技術ではなく、1つ1つの工程を探求し、積み重ねている姿がありました。 沖縄県在住の豆ポレポレ仲村さんの焙煎によって生み出された安田珈琲AKATITIのサトウキビを思わせるシロップのような味わいを是非お試しください。

  • 浅煎り:あずき、ヘーゼルナッツ、白あん、かすかに抹茶のような香りを感じアフターにサトウキビを思わせるような甘い余韻が長く続く。トロリとしたシロップのような質感。
  • 中深煎り:カカオ、ナッツ、ようかん、かすかにウィスキーのような香ばしさを感じ、アフターに黒糖のような甘苦い余韻が感じられる。

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