
コーヒー豆
2020年09月14日
インタビュー
コネクトコーヒー 安藤貴裕 場の雰囲気さえも、コーヒーの味わいを変えるから
安藤貴裕さんがオーナーバリスタを務める〈Connect Coffee〉には、昼夜を問わずにコーヒー好きが集まります。ラテアーティストとして高いスキルを誇る安藤さんのラテアートを求めて来る人はもちろんのこと、お店の居心地の良さに惹かれて足しげく通う人も。「コーヒーのおいしさを求めるだけでなく、人とのつながりを大切にしたい」という安藤さんの思いが、そのまま表れているかのようです。
飲めばなくなってしまうから、記憶や心に残る1杯を
――〈Connect Coffee〉のオープンは2017年。どんなお店にしたいと思っていましたか?
人の輪が広がっていくような場にしたいと思っていました。店名の〈Connect Coffee〉は、「人と人がつながる(Connect)場をつくりたい」という願いを込めて名づけたんです。それから、味づくりはもちろんですが、それと同じぐらいにお店づくりを大切にしていきたいと思っていましたね。接客もそうですし、インテリアや音楽も含めてトータルで満足してもらえる場をつくりたかったんです。
僕自身、コーヒーの世界に入る前は趣味でカフェ巡りをしていたのですが、飲み物を味わうだけでなく、お店に行くこと自体や店員さんとお話しすることを楽しみにしていたんです。そのきっかけとなったのが、福岡市内にある〈CORDUROY cafe〉というお店。はじめて行ったのは、僕がまだ学生だった頃でした。深煎りのドリップコーヒーを飲んだのですが、「味わい深いって、こういうことなんだ」と、なんだかすごく腑に落ちて。
そこからです、僕がコーヒーを好きになったのは。店員さんとのコミュニケーションも、お店の雰囲気も、全部が心地良くて、自分も将来はコーヒーの道に進もうと決めたんです。〈CORDUROY cafe〉のオーナーさんとは知り合いですが、このことはご本人に言ったことはないんですけれど(笑)。
――福岡には個性的な喫茶店やカフェが多くあって、独自のコーヒーカルチャーがあることを感じさせます。
これは僕の印象なのですが、福岡の人びとには、日常生活の一部としてコーヒーが根づいているのかなと思います。うちのお店では夜にお酒もお出ししていますが、コーヒーを飲みに来られる方も多いんですよ。仕事帰りに寄ってくださったり、あとは、お酒を飲んだあとの締めとしてコーヒーを飲む方もいらっしゃいます。県外の方には驚かれることもあるんですが、これも福岡ならではの喫茶文化といえるかもしれません。
――安藤さんといえば、ラテアート。どのように技術を磨いてきましたか?
ラテアートの基本的なテクニックは〈Connect Coffee〉を立ち上げる前に働いていたお店の方に教えていただきました。それをベースにしつつ、アレンジや難易度の高いアートについては、ひたすら練習してとにかく実践あるのみという感じでやってきました。あとは、ラテアートの大会に出場したときにバリスタ同士で情報交換をして、互いに技術を高め合ったり。ライバルというよりは同志という感覚のほうが強いんです。
大会に出ると、改めてラテアートの楽しさを感じたり、魅力に気づかされることがありました。特に印象に残っている大会は東京で行われた「Coffee Fest」。海外のバリスタと交流する機会があったのですが、ラテアートは見た目で理解し合えるから、言葉が通じなくてもコミュニケーションができた。僕たちバリスタにとって、共通言語がコーヒーやラテアートだったんですね。それはとても魅力的なことでした。
――安藤さんにとって、ラテアートの面白さは?
お客さんにいろいろな楽しみを提供できることでしょうか。見て楽しんでもらえるし、飲んでも楽しんでもらえますから。動物やキャラクターものなど、「こんな模様にしてほしい」というリクエストをいただくことも多くて、複雑なモチーフでなければ対応させていただいています。ラテアートは、当然のことながら飲めばなくなってしまうものではあるのですが、お客さんの心に残るラテアートをつくっていきたいですね。
コーヒー好きの輪を広げて、人と人のつながりを生む
――安藤さんは焙煎も手掛けられていますね。
焙煎をやるようになったのは〈Connect Coffee〉を立ち上げてからです。コーヒーの世界に入ったときから興味はあったのですが、まずは抽出を極めていこう、と。そして、いつか焙煎もやろうと思っていました。僕の場合、自分が出したい味のイメージが先にあって、それに近づけられるように焙煎具合やブレンドの仕方を考えていきます。バリスタの経験を積んできたからこそ、抽出したあとの味わいが鮮明に浮かんだりといったことはあると思います。
焙煎は試行錯誤をすることもありますが、それよりも楽しいことのほうが多いんです。コーヒー豆は店頭でも販売しているのですが、イートインのお客さんが帰り際に買ってくださることもあって、うちの味を喜んでもらえたのかなと思うと、とても嬉しいですね。
――〈Connect Coffee〉の焙煎の特徴はありますか?
コーヒー豆については、うちのお店ではカフェラテのオーダーが多いこともあって、ミルクとの相性が良いものを選んでいますね。定番は、チョコレートのような風味のあるブラジルとコロンビアのもの。これが〈Connect Coffee〉の味のコアになっています。
いまのところ、お店は自分の目の届く範囲でやっていきたいと思っているので、店舗はひとつだけですが、うちで焙煎した豆の卸先を増やしていったり、オンライン販売に力を入れていきたいと考えているところです。〈Connect Coffee〉の味のファンをつくって、もしもご縁があれば、いつかお店にも来ていただけたらと思っています。
――店内ではラテアートのセミナーも定期的に開催されています。
若い方や主婦の方、なかにはプロの方もいたり。参加してくださるお客さんの層は幅広いです。「コーヒー好き」という共通点もあって、セミナーをきっかけにお客さん同士が仲良くなることもあります。そもそもセミナーをやろうと思ったきっかけは、もっとコーヒーのことを知ってもらったり、楽しんでもらったりする機会をつくりたかったから。それから、僕自身がお客さんとの交流を深めたかったからです。
ほかにも専門学校や自治体からお声がけいただいて講座で教える機会をいただくこともあります。このあいだは地元の高齢者の方向けにコーヒー教室をやらせていただきました。コーヒーの飲み比べや手網焙煎、それから、「The Roast」を使った焙煎もご紹介させていただいて。すごく反応が良かったことが印象に残っていますね。「ボタンひとつで焙煎できるなんて!」と、新しい技術に興味を持たれていました。
セミナーのほかに、ラテアートの大会を開くこともあります。他店のバリスタの方やホームバリスタの方など、こちらもいろいろな方が参加してくれます。焙煎の大会もありますよ。同じ生豆を使って自由に焼いてもらい、どれがいちばんおいしかったかをお客さんに決めてもらうんです。大会といっても大がかりなものではなく、交流することが目的。コーヒー好きのサークルのような感じですね。
コロナのこともあって、イベントは従来通りにというわけにいかなくなるかもしれませんが、オンラインを積極的に活用しながら、コーヒー好きの方に楽しんでもらえるように工夫していきたいですね。お店のインスタグラムでは、動画でラテアートのつくり方や抹茶ラテの淹れ方などをご紹介しています。
――セミナーや動画など、安藤さんは教えることを通じてコーヒーの魅力を伝えているのですね。これから本格的におうちコーヒーを楽しみたい方へのアドバイスは?
コーヒーを仕事としている人に「おいしいコーヒーを淹れるには?」とたずねたら、おすすめのコーヒー豆だったり、淹れ方のコツ、使う道具など、さまざまな答えが出てくると思います。もちろん、そのどれもが欠かせない条件ではありますが、初心者の方には敷居が高いと感じられることもあるかもしれません。僕は少し視点を変えて、それ以外の要素についてもお伝えしたいですね。
例えば、コーヒーを淹れるときに自分自身が心地よくいられるようにすること。コーヒーを淹れる道具やそれを飲むカップ、音楽や家具といったコーヒー周り以外のことも含めて、すべてが自分自身のお気に入りのモノで囲まれた状態でコーヒーを楽しむことができたなら、それは最高においしい1杯になるはずです。これからコーヒー道具を揃えるのでしたら、ぜひ自分のテンションが上がるようなものを選んでみてくださいね。そうしてコーヒーを淹れることが楽しくなってきたら、コーヒー豆の産地にこだわってみたり、淹れ方を工夫してみたりと、本格的な知識や理論を勉強してみるのもいいと思います。
「自分のテンションが上がるものを」ということは〈Connect Coffee〉のお店づくりにも共通しているんです。例えば、お店で使っているエスプレッソマシンは一目ぼれしたもの。もともとのボディの色はシルバーでしたが、カスタマイズして、僕が好きな色の黒に、サイドパネルはウッドにしてもらいました。自分が好きな道具を使い、好きな空間で働くことで、自分の気持ちも上向きになりますし、そうしたポジティブな雰囲気は、お客さんにも伝わると思っています。
安藤貴裕 ANDO Takahiro
福岡県出身。福岡市内のカフェ〈townsquare coffee roasters〉を経て、2017年9月〈Connect Coffee〉をオープン。オーナーバリスタを務めるかたわら、イベントやセミナー、専門学校で講師を務めるなど、コーヒーを普及する活動も精力的に展開。2014年「UCCマスターズ全国大会 ラテアート部門」優勝、同年「Coffee Fest ラテアート世界大会」準優勝をはじめ、入賞歴多数。
写真:中村紀世志 取材・文:菅原淳子